婦人科形成で「性交痛」が解消できる?(後編)

婦人科形成で「性交痛」が解消できる?(後編)

性器の悩みを誰にも話せない、インターネットで検索しても真偽が不確かな情報が多い……。ひとりで悩みを抱えてしまい、何年もひとりで痛みや不快感に耐えている女性は少なくありません。

「女性のためのセクシュアルウェルネス」をテーマに、さまざまな「性の専門家」をお招きし、性をもっと正しく、楽しく学べる場所を目指すYouTubeチャンネル「bda オーガニック|セクシュアルウェルネス塾」

今回のゲストは、美容外科医の奥村智子さん。婦人科形成術のスペシャリストでもあり、今年7月、東京・新宿に「ルクスクリニック」を開院されました。婦人科形成術とは、小陰唇や大陰唇、腟などのトラブルを手術によって解消するものです。これまで合計5,000例以上の症例を診てきたという奥村さんに、女性器の悩みとその解消法をうかがいました。

*こちらの記事は前編・後編に分かれています。前編はこちら >>

YouTube動画(下に記事が続きます)

聞き手&text=三浦ゆえ(ライター)

─女性の性器に関する悩みで多いものに「におい」があります。日ごろから気になる人、生理中は特に気になる人…。奥村さんにその解消法を聞く前に、そもそも「におい」は婦人科形成で相談するものなのかどうか、うかがってみましょう。

奥村:原因を見極めるためにも、ぜひ相談してほしいですね。腟炎や性感染症といった婦人科領域の病気でにおいが発生していることもあれば、洗い方が正しくなかったり性器の構造上汚れがたまりやすかったりといった理由で発生していることもあります。どちらにしろ、個人では判断しにくいものです。

─においの解消というと、最初に思いつくのは「よく洗う」になるのではないでしょうか。しかし日本では子どものころに性器の洗い方について親世代から教わる習慣がありませんし、性器を見ることに抵抗があってどこを洗えばいいのかよくわかっていない人もいます。
市販の石けんやボディソープでゴシゴシ洗うほど粘膜を傷つけてしまいますが、いまのところ低刺激のデリケートゾーン専用ソープがそこまで一般的になっているわけでもありません。

奥村:クリニックでも洗い方の説明や指導を行っていますが、性器の構造上汚れがたまりやすい場合は、手術を受けられるほうが確実に悩みからフリーになれると思います。

─汚れがたまりやすい構造とは、どのような状態をいうのでしょうか。

奥村:陰核、つまりクリトリスですが、これを覆う「陰核包皮」というものがあります。
人によってはこの皮膚が大きかったり厚かったりして、もたついてしまい、そこに汚れがたまりやすいんですね。また、陰核包皮と小陰唇をつなぐ「副皮」という部分がありますが、ここの形状も人それぞれで、まったくない方もいれば、やはり大きくてヒダのようになっている方もいます。
どういう状態が正しいということはないのですが、陰核包皮や副皮に垢がたまるとにおいの原因になりますし、炎症を起こして痛みや赤みが出るなど、さらに困った状態になることも。手術で皮膚の余っているところを取り除くだけで、劇的に変わります。

─最初から性感染症とわかっていれば、婦人科を訪れたほうが早く治療につながるでしょう。しかし、奥村さんのもとに相談にくるのは「におう気がする」「蒸れている感じがつづく」など、なんとなくの不快感を訴える女性が多いといいます。
前篇で小陰唇について、婦人科では「病気ではないから問題ない」といわれてしまうというお話をしましたが、陰核包皮や副皮についても見落とされがちです。
また、セックスの悩みが婦人科形成術で解消される場合もある、と奥村さんはつづけます。

奥村:セックスのときに痛いことを「性交痛」といってさまざまな原因がありますが、腟に挿入されると痛い人の場合、原因のひとつ「処女膜強靭症」が考えられます。
処女膜が非常に固い状態で、そこにちょっと触れただけでも強い痛みが走ります。自分の指も入らないし、「経腟エコー検査」といわれる、婦人科で棒状の器具を腟に挿入し超音波で子宮や卵巣を見る検査がありますが、これも痛くて耐えられない……こうなるとセックスなんて到底できないですよね。
ご結婚されていながら一度も性交渉が成立していなかったり、または痛くて痛くて涙が出そうなのに相手を喜ばせるため演技をされたりといった女性は、あまり知られてはいませんが少なくないんです。

─聞いているだけでも、つらい話です。そうした女性は「気持ちよくなれないなんて、自分がおかしい」「女性として欠陥品だ」などと自分を責め、人に相談しようという考えにも至らないといいます。

奥村:セックスについてオープンに話す文化がない日本では、性行為がどういう感覚なのかを、人と共有する機会はあまりないですよね。
初体験からずっと痛くて「セックスとは痛いものだ」「みんなそうにちがいない」と思っている方もいます。そうなると解消のため行動するのもむずかしくなりますし、パートナーとの関係にもいい影響は及ぼさないでしょう。原因が処女膜だとわかれば、ちょっと切れ目を入れる切開手術で解消できるケースがほとんどです。
時間にして10分ぐらいで済みますし、出血も少なく、本当に簡単な手術なので、悩んでいる方はぜひ一度相談してほしいと思います。

─それによってセックスで快感を得られるようになれば、パートナーとの関係もよりよいものになるかもしれません。

奥村:手術された方は、「もっと早く知っていれば、10年前、20年前に手術してもらってたのに」と口をそろえておっしゃいますね。この手術は一生に一回すればよくて、切開したところが元に戻ることはありません。セックスだけでなく、生きることそのものに前向きになっている様子を拝見していると、私もうれしいです。

─最後に奥村さんに「婦人科形成術に注力する理由」をうかがいまいた。

奥村:私が美容外科医になったとき、婦人科形成術を行う女性医師がとても少なかったんです。女性器にまつわる悩みを男性医師に相談しにくいということで、私に相談に来られる方が多くて、気づいたら年間300から600件以上の手術を手がけるようになっていました。
7月に新しいクリニックをオープンさせたのですが、これまでは痛みや不快感についての相談がメインだったのに対し、最近は自分の女性器をもっときれいにしたいという、美意識をもって手術を希望されている方も増えています。タブー意識が強いといわれますが、日本人女性と女性器との関係も少しずつ変わってきていると感じますね。

~編集後記~

私が制作に携わった書籍のひとつに『夫のHがイヤだった。』(Mio著、2019年、亜紀書房)があります。夫のことは大好きなのにセックスでは性交痛があり、しかし拒むと夫は不機嫌になって八つ当たりしてくるので応じるしかない……。本来なら一緒にいてもっとも安心できるはずの人から、痛みを与えられる日々。著者であるMioさんは、やがて心身を病んでいきます。

性交痛に悩む女性は実はとても多いといわれています。本人も子どもがほしくて「自分さえ我慢すれば」と耐えたり、ただひたすら早く終るよう祈ったり、Mioさんのように傷つきパートナーとの関係が壊れてしまったり。

「たかがセックス」「たかが性器の痛みや不快」と我慢を引き受けるのではなく、奥村さんをはじめとする専門家にその相談をすることはとても大事ですが、それは「痛いのはイヤだ」「不快からフリーになりたい」と認識することからはじまるように思います。

自分の身体を快適に保っていい、なぜならその価値があるから──そんなふうに自身の身体をポジティブにとらえ、アクションを起こせる女性がもっと増えますように。

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