「フェムテック」という言葉を聞いたことはありますか? 「フィーメール+テクノロジー」の造語で、世界でも成長市場にあるといわれています。
「女性のためのセクシュアルウェルネス」をテーマに、さまざまな「性の専門家」をお招きし、性をもっと正しく、楽しく学べる場所を目指すYouTubeチャンネル「bda オーガニック|セクシュアルウェルネス塾」。
今回のゲストは、「fermata(フェルマータ)株式会社」のCCO中村寛子さん。同社は、女性のウェルネス課題の解決・支援事業を行う一環として、国内外のフェムテック・プロダクトをオンラインショップ、実店舗にて販売しています。
フェムテックで、女性のセクシュアルウェルネスはどう変わるのか?
お話をうかがった前編の模様を、動画未収録分をまじえながらお届けします。
*こちらの記事は前編・後編に分かれています。後編はこちら >>
YouTube動画(下に記事が続きます)
聞き手&text=三浦ゆえ(ライター)
─2020年7月、東京のランドマークのひとつ、東京ミッドタウンをすぐそばに見上げる場所に「New Stand Tokyo」がオープンしました。“未来の日用品店”をコンセプトとした同店には、fermataが国内外のフェムテック市場から厳選したプロダクトも並びます。
迎えてくれた中村寛子さんに、まずは「フェムテック」とは何かを教えていただきました。
中村:一般的な定義は、「女性特有の健康課題を、テクノロジーを用いて解決するプロダクトやサービス」です。
女性特有の健康課題とは、月経や妊活、不妊治療、更年期などのこと。女性の体は初潮からポスト更年期まで変化しつづけるので、各ライフステージに合うプロダクトを指しています。
そうしたフィジカルの変化には、必ずメンタルの変化もともないます。たとえばPMSでストレスを溜め込んだり、妊活や不妊治療で悩んでしまったり。メンタルヘルスをよりよい状態に保つことも、フェムテックには期待されています。
─フェムテックという言葉が生まれたのは、2012年のドイツ。ひとりの女性の、月経に関するニーズが端緒となったのだといいます。
中村:アイダ・ティンさんという女性がいて、彼女はバイクに乗るのが趣味。バイクで遠出するスケジュールを組むのに、自分の月経周期をあらかじめ予測できたら……と考えて、月経管理アプリ「Clue(クルー)」を開発しました。
その後、起業に向けて資金集めをはじめたとき、何人もの投資家と会ったそうですが、投資の世界ってまだまだ男性中心の構造なんですよ。
月経の周期や経血についての困りごとを解決するプロダクトといっても、なかなかお金が集まらない……そこでアイダさんが、新しい産業が生まれたように見せたらどうだろう、と考えて作った言葉が「フェムテック」だといわれてます。
月経がいつ来るのか。それがわかれば仕事のスケジュールも旅行の日程も組みやすい。
それは裏を返せば、月経周期を把握できないことで困っている女性が多いということです。日本にもメジャーな生理日管理アプリがありますが、世界中で所変わっても女性の悩みは共通しているということですね。
─中村さんがフェムテックと出会ったのも、そのClueのメンバーを通してでした。
中村:初めてフェムテックという語を知って、それって何? とわからないながらも、すごく興味を惹かれました。
いろいろ調べていくうちに、女性のウェルネスってこれまでなかなか話されてこなかったなぁ、と気づいたんです。
実際、いまあるフェムテックプロダクトには、個人のリアルな健康課題から生まれているものがけっこう多いんですよ。
自分がもやもやと悩んでいたことが、実は多くの女性に共通していると知る。でもそれを解決するプロダクトがない……じゃあ自分で作ってしまおう! という動きが、いま世界中で起きています。
─生理期間や妊活中に、「これイヤだな」と思いながも、「でもがまんできないほどじゃないから」「みんな平気そうな顔をしているから」と自分に言い聞かせ、やり過ごしてきたことはないでしょうか。そうしたことを「解決すべき課題」と認識することからフェムテックははじまります。
─このように世界で注目されているフェムテック、日本での現状はどうなっているのでしょう?
中村:fermataでは2020年3月に最新の「マーケットマップ」を発表しました。現在、このジャンルでどんな企業があるのかをカテゴリーに分けて図示したものですが、日本では51社にのぼることがわかりました。
この数字が少ないか多いかでいうと、私たちは多いと思ってます。日本はこの分野において遅れていると思われがちですが、この数字には市場の盛り上がりを感じます。そこから数カ月経った現在、もっと増えています。
中村:世界のマップに目を移すと、これまで世界のセクシュアルウェルネス市場には実は偏りがあったということがわかりました。このカテゴリーでは「プレジャー」「プレジャーアイテム」を扱う企業が含まれることが少なかったんですが、fermataではそれらも「セクシュアルウェルネス」のカテゴリーに含めました。「New Stand Tokyo」でもプレジャーアイテムを多数、取り扱っています。
─後篇は、具体的なプロダクトを紹介していただきながら、そこから見えてくるセクシュアルウェルネスの現在地についてもお話をうかがいます。
女性特有の困りごとは「ささいなこと」「我慢すればいいだけのこと」としてそのままにされがちです。個人差も大きいので、女性であれば誰とでも共有できるわけでもないのが、また困ったところ。これまで私は、こうした女性の健康課題が共有されず据え置かれがちのは日本特有のものだと思っていましたが、程度の差こそあれ世界でも共通して見られる現象だったのですね。
それを「我慢する必要なし!」「快適な状態を求めるのはワガママではなく、当然のこと」としてアクションを起こした人たちがフェムテック市場のパイオニアとなったというお話は、とても心強く感じますし、救われるような気持ちになる人もいるのではないでしょうか。
「生理のときは、ナプキンをつけるもの」以外の方法を考えたことがなかった人が多いと思います。
日本では生理用紙ナプキンが非常に高性能かつ充実しているため、それでもものすごく困るということはなかった。けれど、そのときどきの状況や気分にマッチした方法がほかにあるなら……。
今回ご紹介いただいた「生理用パンツ」や「月経カップ」といった選択肢があると知ることで、自身の月経、身体に対する考え方が変わりそうです。
フェムテックとはただ困りごとを解消するだけでなく、そうした価値観、ライフスタイルの転換をうながすものだということを、fermataの中村寛子さんが教えてくれました。