夫婦、カップルの「セックスレス」原因とは?医師が解説(前編)

夫婦、カップルの「セックスレス」原因とは?医師が解説(前編)

セックスについて語られる機会が増えた昨今でも、セックスレスについてはまだまだ、と感じさせられます。「うち、レスでさ~」と軽く言うことはできても、身近な人に相談できない、かといってどこで相談していいのかわからない……。
そこで、ネットで検索する人が多いようですが、必ずしも確かな情報、自分に合った有益なアドバイスに出会えるとはかぎりません。

「女性のためのセクシュアルウェルネス」をテーマに、さまざまな「性の専門家」をお招きし、性をもっと正しく、楽しく学べる場所を目指すYouTubeチャンネル「bda オーガニック|セクシュアルウェルネス塾」

今回のゲストは、産婦人科医でセックスセラピストの早乙女智子さん。これまで多くの女性の悩みに、専門的かつ世界最先端の知見でもって応えてきました。セックスレスはどう始まるのか、そしてどこにどう向かうものなのかをうかがいます。

*こちらの記事は前編・後編に分かれています。後編はこちら >>

YouTube動画(下に記事が続きます)

聞き手&text=三浦ゆえ(ライター)

─なぜセックスレスになるのか──カップルの数だけきっかけがあるものですが、代表的なものを早乙女さんに挙げてもらいました。

早乙女:1つめは、結婚した途端にしなくなるケース。
それまでふたりで盛り上げてきただけに、気持ちが途切れちゃうのでしょうね。一緒に住みはじめるとホテルにも行かないし、日常がまわりはじめます。女性がご飯を作って、お掃除して、洗濯して……と毎日バタバタしている一方で、男性が何もしない。家事がセックスと関係あるんですか? と思われるかもしれませんが、意外にあるんです。
そして2つめのきっかけとして、妊活があります。

─ご存知のとおり、妊娠を希望するカップルが具体的に行動を起こすことで、不妊治療まで含む場合もあります。近年は20代でも「自然にまかせておけばそのうち授かる」ではなく、積極的に妊活する風潮が強まっています。

早乙女:排卵日を狙ってセックスするカップルが多いので、男性がプレッシャーを感じて、残業などを言い訳に早く帰宅しなくなりがちです。
妊活でなくとも、女性には1カ月のなかでサイクルがあるので、それを男性が理解しないことですれ違いが生じるというのもよく聞く話で、これが3つめのきっかけと言っていいと思います。
たとえば、PMS(月経前症候群)ですね。女性がすごくイライラしていて、男性が声をかけられなくなります。

─男性が、パートナー女性のサイクルを理解し、声のかけ方を工夫するだけでも、ふたりのあいだのコミュニケーションは大きく変化するでしょう。どうやら妊活にしても女性のサイクルにしても、身体だけの問題ではなさそうです。

早乙女:たいていの場合、セックスレスの前に、コミュニケーションレスがあります。妊活の話でも、男性の帰りが遅くなると、月に一度しかチャンスがない女性としては、「子どもほしくないの?」「私のことを愛していないの?」と勘ぐってしまう。
それがつづくと「うちは子どもいらないの」と自分に嘘をつくようになる。本音ではないんですよ。その前に「いまは仕事が忙しい」「今夜は気が乗らなくて」とお互いに言えていれば避けられたかもしれないのに、もったいないですよね。

─4つめのきっかけである産後のセックスレスも、コミュニケーションのすれ違いが大きいと早乙女さん。

早乙女:産後のセックスレスは、ほとんど妊娠中からセックスレスで、さらに妊活中からセックスレス。
排卵日以外はセックスしようとしないからなかなかできず、体外受精がはじまるとさらにセックスを避ける、やっと妊娠すると今度は流産や早産したらどうしようとセックスしない。男性は男性で、お腹が大きくなった女性を女性と見られない……セックスレスになりうるタイミングって、たくさんあるんです。

─そこから本当にレスになるかどうかの分かれ目は、そのときどきでどんなコミュニケーションをするか、どのように自分を説明するか、どこでお互い折り合うか。こうしたことを省略すると、お互いを理解できなくなります。
女性が40代、50代で迎える更年期もセックスレスのきっかけになりえますが、早乙女さんはそこに日本特有の現象が大きく関係していると見ています。

早乙女:更年期以降もセックスを愉しんでいる人もいれば、「閉経したから、もうしなくてもいいですよね」と言う人もいます。これまで自分はそんなにしたくなかったけどパートナーに合わせていた人が、更年期を機にやめたい、ということですね。でも、「セックスを卒業します!」みたいな宣言はなくていいと思うんです。
そんな時期もあるけど、体調や気持ちの変化によってまたしたくなるときがくるかもしれない。熟年離婚も多くて、新しいパートナーができた途端に、日常的に愉しむようになったという話も聞きます。
年齢で区切りをつけるのではなく、いまの自分をそのまま受け入れて、いまの自分のセックスをする。「こんなおばあちゃんでも、セックスしていいのかしら」なんて思う必要はなくて、おばあちゃんにはおばあちゃんのセックスがあるんです。

─年齢を理由にネガティブな印象を持たれたり差別されたりといったことを「エイジズム」と言います。自分で自分に、エイジズムを向けていないか、いま一度考えたいところです。
同じことが容姿を理由に行われるのであれば、それは「ルッキズム」です。

早乙女:最近ではボディポジティブという言葉も耳にするようになりましたが、日本ではまだルッキズムが根強く残っていて、若くて、細いことが、美しいとされている。
それがセックスレスになったとき「私に魅力がないからだ」という考えにつながるんですね。それは、相手目線で自分を評価しているということです。
日本の女性には、「自信がない」とおっしゃる方が多いですね。自信ってすごく簡単で、自分を信じればいいんですよ。

─早乙女さんが気になっているのが、「日本人は生真面目すぎる」ということ。だから、ルッキズムやエイジズムをそのまま内面化してしまうのでしょうか。

早乙女:それもありますし、セックスレスの定義に自分が当てはまるかどうかを気にしすぎてしまうんです。
たしかに「病気など特別な事情がないのに、1カ月以上セックスしていないこと」という定義はあります。でも、たまたま2カ月あくときがあっても、いいじゃないですか。「1カ月に1回はないといけないんだって!」と、定義に身体を合わせてく必要はないんです。

─あらためて考えたいのが、「自分はセックスをしたいのか、したくないのか」です。その前提として、プレジャーの権利について知っておいてほしいというのが、早乙女さんの願い。

早乙女:WAS(=World Association for Sexual Health、性の世界健康学会)が2019年はメキシコシティで開催されたのですが、そこで”セクシュアル・プレジャー宣言”が発表されました。
性を愉しみ快感を得ることが誰にとっても権利である、という宣言です。これまでは、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」といって、性と生殖の健康と権利が大事だと言われてきて、そこに突然、プレジャーが加わったのです。
私も最初はびっくりしましたが、健康と権利を完璧にするためにこそ、プレジャーがあるとじわじわ腑に落ちたんです。

─私たちは愉しんでいい、というのは、なんとも心強い考え方です。
相手がしたがっているから、しなければならないから「する」のではなく、年齢や身体に自信がないから「しない」のでもなく、そのセックスは自分にとってプレジャーなのかどうかが重要だということです。

早乙女:自分にとって何が、あるいはどういう状態がプレジャーなのかを知り、「私はこうしたい」「これはしたくない」ということがわかっていて、相手に伝えることもできる、そして実行に移せる──私はそれが、自立した大人なのだと思います。
セックスレスは双方にとって苦しいことだし、先が見えなくてとても不安だと思います。ふたりを取り巻く事情が変わってきて、いつの間にか解消できていることもあれば、次のステージに行くこともあるでしょう。そのときどきで、自分のプレジャーを見失わずにいてほしいです。

─後編では、セックスレスにならないための、そしてセックスレスになったときにどう考えればいいのかを、引きつづき早乙女さんにうかがいます。

~編集後記~

セックスレスがメディアで取り上げられるとき、それは望ましくない状態である、解消すべき問題であるという切り口で語られることがほとんどです。その考えが知らずしらずのうちに刷り込まれ、パートナーとセックスしていない/できない自分はおかしいのではないかと、自分を責める人が多いように見えます。

早乙女さんのお話をうかがっていると、セックスレスはある日突然なるものではなく、そして、どちらか片方だけが決定的に悪くてなるものでもないのだとわかります。心身の調子など仕方のないことだったり、お互いのコミュニケーション不足だったり……何か理由があるとすれば、それはふたりで向き合うべきものということでしょう。

また、セックスレスは回数で判断できるものでもありません。するのが年に数回でも、そこに自分のプレジャーがあればセックスレスと決めつけなくていいし、逆にいうと、本当はしたくないのに相手から求められるままに応じているだけで、そこにプレジャーがないのであれば、それはセックスしているとは言えないのではないでしょうか。
自分のプレジャーを基準に考えると、見方が変わる。このセクシャルウェルネス塾がそんなきっかけになると幸いです。

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