自分の〈体〉のトリセツをつくろう ①

自分の〈体〉のトリセツをつくろう ①

「女性のためのセクシュアルウェルネス」をテーマに、さまざまな「性の専門家」をお招きし、性をもっと正しく、楽しく学べる場所を目指すYouTubeチャンネル「bda オーガニック|セクシュアルウェルネス塾」

今回のゲストは、AV男優の森林原人さん。キャリア20年超のベテランであるだけでなく、最近では雑誌やwebメディア、講演活動などをとおして、正しい性情報の発信にも力を入れていらっしゃいます。

「セックスで大事な心・技・体」についておうかがいする全3回のうち、〈体〉についてお話をうかがったvol.1の模様を、動画未収録分をまじえながらダイジェストでお届けします。

*こちらの記事は3回に分けて配信します。
1回目>> 2回目>> 3回目>>

YouTube動画(下に記事が続きます)

聞き手&text=三浦ゆえ(ライター)

リアルに知ると、おそれがなくなる。

三浦:森林さんからご覧になって、自分の体を知っている女性は多いと思われますか。

森林:非常に少ないと思います。知識があると自分で思っている人でも実は情報が偏っていたりします。たとえば、小陰唇という、腟口の周辺にあるヒダのような部分を切除する整形手術が増えているみたいですが、機能的には大きかろうが左右非対称だろうがなんの問題もないんです。

なのに、男性の仮性包茎と同じく、相対的な美的観点から煽られて「切らなきゃ」と思わされている。痩身神話と同じで、正解がない美的観点で不安をいだかせて商品やサービスを売り付けるビジネスのカモにされているんです。一説によると、陰唇の形がハートの原型だそうで、だとしたら大きい方が立派なハートになるんですけどね。

三浦:それはすてきですね!

森林:自分の性器を見たことがない女性は多いです。触ったこともなくて、洗い方もわからない。男性からすれば、本人がよくわかっていないところを差し出して「気持ちよくしてね」といわれても、100年前の人にiPhoneを渡して「使いこなして」といわれるようなものですよ。無理があります。

三浦:森林さんも男優をはじめたころは、女性器のことをあまり知らなかったのでは?

森林:はい。僕は男兄弟しかいないので、身近に生理というものがありませんでした。それがAVの撮影現場に行くようになると、生理のタイミングが撮影にぶつかっちゃう女優さんもいて、そのつらさだとか、どういうケアが必要なのかを聞くことになります。経血が出てこないよう女性器に“海綿”という吸収体を入れるのも、男優の仕事で、生理がどういうものか身をもって知っていくと、嫌悪感みたいなのがなくなりますよね。

あと、男性は怒られたほうがいいですよ。僕は生理というものをわかった気になって、あるとき友だちとの会話で「女性はわけもわからず不機嫌なときがあるけど、そんなときは『生理なんだな』ってとらえれば、こっちもイライラしない」といったところ、当時の彼女に怒られましたね。「自分のせいでイライラされてるって考えないの!?」……ああ、なんでも生理のせいにしちゃいけないな、と。

性器と愛情、興奮のほんとの関係

森林:実は男性って、パートナーの女性器のことをあまり覚えていないんですよ。形状や色、においといったものはほとんど思い出せない。それよりも、そのときの感覚ですね。つながったときに、自分がどう感じたか、最中にどんな言葉を交わしたか、どんなふうに喜んでくれたか……。
だから、その人の性器だけを見て興奮したり萎えたりする男性は少ないと思います。もしその視点で興奮するんだとしたら、人という存在にではなく物にフェチ的に興奮してるってことです。

三浦:女性向けのセックス特集では、「ヘアが濃いと男性は萎えるぞ」というような、脅しの記事が多いですよね。

森林:それは、経済の罠ですね(笑)。たしかに一部には、そういうことを大声でいう人がいるんですよ。しかも主語が大きい。「男ってもんはな……」みたいな。「いやいや違うよ、それあんた個人の都合だから!」ってヘア好きの僕は大声でいいたいですね。

三浦:女性が男性の体について思い違いをしているところはありますか?

森林:男性器に対して、よくも悪くも単純化して考えすぎだと感じます。男性器が大きくなった=やりたい、だと思っていませんか? 逆に途中でしぼんだり、そもそも元気がなかったりすると、「私のこと愛してないんでしょ」と思っちゃう。勃起具合と愛情、あるいは興奮度がセットにされがちです。比例するところがないわけではないですが、勃たなくても愛おしく思ってるときはあるし、好きすぎて勃たないときだってある。

なんで勃たないのか、なんでカチカチになるのかは、男性自身もわかっていないんです。基本、意思とつながってないから。そこを意思とつなげられる人が、AV男優になれるんです。意思で勃たせて、意思でイク。僕は自分でこういうのもなんですけど、才能がありましたね。初めての現場から「発射しろ」といわれて5秒でイケました(笑)。

性愛を楽しむために、欠かせないもの

三浦:女性も、濡れる濡れないで愛情や興奮度を判断されるとしんどいです。

森林:濡れ具合も、年齢や体調に左右されるものですから。AVの撮影現場には、ほぼ100%、ローションがありますよ。僕は、コンドームがセックスにおける運転免許証なのだとしたら、ローションはシートベルトだと思っています。免許なしでもシートベルトなしでも、車は動きますよ。でも危ない。捕まります。

三浦:私は乗りたくないですね……。

森林:2、30年前だったら、無免許で、シートベルトせずに運転する人が現在よりもたくさんいたんです。正しい知識がなかったから。正しい知識を身に着けた僕たちは、そこに恐怖を感じます。
僕の感覚としては、コンドームなしのセックスは自殺行為だし、ローションなしは夢見すぎ。コンドームやローションを使うことは当たり前。これが正しい知識として普及すれば、そこに余計な意味づけはしなくなります。濡れてないから、感じてないから、愛情がないからローションを使うのではなく、その行為を安心、安全に楽しむためにローションが必要だよねという考えになる。

三浦:自分の体を知る手段のひとつに、セルフプレジャーがありますよね。自分で自分を気持ちよくする行為です。森林さんは、女性もセルフプレジャーをしたほうがいいと思われますか。

森林:もちろんです! 性愛を楽しむとき、こうしたら気持ちいい、こうしたら痛いと自分で知っておく必要があります。それが“自分の体のトリセツを作る”ということ。じゃないと、いざというときに「それやめて」や「こうして欲しい」がいえないです。

男性も基本は、よかれと思ってやっている。だから、「気持ちいいでしょ」と女性に訊く。でも女性は「痛いです」とはいえないですよね。それは一晩かけて煮込んだカレーライスを出されて「どう?」と訊かれたときに、「おいしくない」といえないのと同じです。相手の好意がわかるからこそ、いえない。

人間にとって“快を得る”“心地よさを求める”というのは、誰もが持っている本能なんです。快や心地よさは人によって違うけど、それを求めるのはみんな一緒。そして、ほとんどの人にとって、好ましい相手とつながっていくのは快です。つながる方法はリアルやオンラインといろいろあって、その充実が生きる喜びとなっていきます。

自分のなかの快、不快を大切にしよう

三浦:快が、人と人とをつなげていくのですね。

森林:人間には根源的な孤独感があって、だから誰かとつながりたいという気持ちも生まれます。その孤独感を克服するために、性や性愛がとても有効だと僕は考えています。つながりの快を得るには、準備段階として自分の中にある快を感じるレセプターを機能させておく必要があります。それは特別むずかしいことではなくて、赤ちゃんのときに快、不快を見分けていたレセプターを機能させ直すだけです。

大人になるにつれ、快、不快ではなく、正解不正解、損得、勝ち負けといった相対的な判断を優先させるようになっていきます。たしかに社会に適応するには必要なことですが、性と向き合うときには、意味や価値ではなく、自分のなかにある快、不快だけを大切にしてほしい。それには内側に意識を向けて、自分の深いところにある心の声を聞けるようにします。そのためにセルフプレジャーをするんです。美しい表現でいうなら、自分で自分の体を愛する行為です。

三浦:森林さんは、セックスにおけるプレジャーの本質は何だと思われますか?

森林:自分ではない他者とつながることにあると思います。そこでは挿入が必ずしも必要なわけではありません。行為としては、肌と肌がふれ合う、見つめ合う、抱きしめ合うになります。それらが挿入と違うのは、主体と客体、能動と受動の立場が区別できないほど絶えず入れ替わっているような一体感があるところで、それが性のプレジャーの本質です。

オーガズムの追求を否定するわけではないんです。ただ、それを目標やゴールに設定しちゃうと、ゲームのように攻略したり、勝ち負けがある競争になってしまいつながれない。性のプレジャーの本質が「つながり」にあることを忘れないでほしいですね。

〜編集後記〜

知らないもの、見たことも触れたこともないものに対して、人は何をどう思っていいかわかりません。わからないことが、おそれにもつながります。多くの女性にとって、「性器」はそういう存在ではないでしょうか。

しかしそこを知らないのは、森林さんのいう「トリセツ」の、最初の1ページ目が抜け落ちているようなもの。そんな状態では何が正解かもわからず悩むばかりで、実は正解などないのだと知るまでの道のりもまた、長いものになりそうです。

性器だけではありません。女性の体は「こうあるべき」といった価値観を他人や社会から押し付けられがちです。森林さんの「セルフプレジャーによって、自分で自分の体を愛することが必要」という言葉を聞いて、それができてはじめて、体はひとりひとり違って当たり前だし、他人からとやかくいわれる筋合いは一切ないと自信をもっていえるようになるのではないかと感じました。他人とつながる前に、身につけておきたい考えです。

私は、Netflixで配信されているアメリカのリアリティ番組「ル・ポールのドラァグレース」のファンですが、番組内でカリスマ的ドラァグクィーンであるル・ポールは、出演者に決まってこう問いかけます。「If you can’t love yourself, how in the hell you gonna love somebody else? 自分を愛せなければ、誰も愛せやしないわよね?」……そんなことを思い出す、森林さんのお話しでした。(三浦ゆえ)

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