性のタブーをなくして、遊び〈心〉のあるセックスを ③

性のタブーをなくして、遊び〈心〉のあるセックスを ③

「女性のためのセクシュアルウェルネス」をテーマに、さまざまな「性の専門家」をお招きし、性をもっと正しく、楽しく学べる場所を目指すYouTubeチャンネル「bda オーガニック|セクシュアルウェルネス塾」

今回のゲストは、AV男優の森林原人さん。キャリア20年超のベテランであるだけでなく、最近では雑誌やwebメディア、講演活動などをとおして、正しい性情報の発信にも力を入れていらっしゃいます。

「セックスで大事な心・技・体」についておうかがいする全3回のうち、〈心〉についてお話をうかがったvol.3の模様を、動画未収録分をまじえながらダイジェストでお届けします。

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YouTube動画(下に記事が続きます)

聞き手&text=三浦ゆえ(ライター)

支配的な男性ばかりが寄ってくる

三浦:”心”についてうかがううえで、第1回目のときに、特に女性は「性のタブー、いろんなブロックがある」というお話があったので、さらに詳しく教えてもらえますか?

森林:タブーやブロック、多いですよね。僕は、その原因は教育にあるという考えです。大人が性について隠したりごまかしたり、嘘をついたりすると、子どもはネガティブなイメージを持つんですよ。自分のなかに湧きあがってくる感情や欲望、願望を認められなくなります。

すると、自己否定するようになるんですよ。「性欲が強い自分はおかしい」となるし、日常生活にも影響します。昼食でカレーとラーメンのどちらかを選ぶとき、自分はカレーが食べたい。なのに、みんながラーメンといったら、「ひとりだけカレーなんて、私はおかしい?」「じゃあラーメンにしよう」と自分を偽るようになるんですよ。

恋愛面では、人から「好きだ」といわれても、信用できない。私のことを好きになる人なんかいるわけない、となってしまう。体目当てでしょ、お金目当てでしょ、すぐにポイ捨てするんでしょ……。相手の気持ちを素直に受け取れないんです。自分には自分の感情、願望、欲望があると認められないと、人から利用してもらいたい、支配してもらいたいというサイクルに入る。気がつけば、自分に大事にしてくれない人とばかりつき合うことになります。

三浦:そんな女性には支配的な男性ばかり寄ってきますよね。

森林:お互いに居心地がいいから、わかるんでしょうね。そうした男性にとって意思を持った相手というのは、自分を否定してくれる可能性があるから怖いんです。支配と被支配、縦の関係でしか人と関われなくて、実は親子間もそうだったという人が多いです。だから、人と対等につき合おうにもバランスや距離感がわからないんですよ。

自分で決めれば「ヤリ逃げ」はない

三浦:それは、いまから変えることができますか?

森林:変われます。自分のなかに芽生えた違和感に気づいてほしいんですよ。なんかこの人イヤだ、私はやっぱりカレーが食べたい……自分の感覚を大切にして積み重ねていくと、自分のことを自分で認められるサイクルができ、何ごとも自分で決められるようになるんですよ。親とか占い師とか、誰かに決めてもらうんじゃない。その結果、うまくいくかどうかはわからないけど、自分で決めた場合は後悔しないんですよ。

セックスにおいても、自分でちゃんと選んだのなら、ヤリ捨てとかヤリ逃げとかって言葉は出てこないです。男女ともに、どちらかが一方的に相手を利用した、搾取した、すり減らしたことにはならないですよ。

三浦:女性からの性の相談で断トツに多いのが「イッたことがないんです」。これも、ブロックやタブーが原因のひとつでしょうか?

森林:そうであるケースが多いでしょうね。僕は、女性がイクためには三つのことが必要だと思っています。ひとつめは、「セルフプレジャーを通して、自分の体を知っておく」、ふたつめは、「相手の技術」。特別な指技を持ってるとかじゃなく、パートナーの話を聞いて、いわれたことに応えていける技術という意味です。三つめが、「性のブロックがない状態」なんですよ。ブロックがあると、セックスしているときにダメダメダメってブロックが入り、体がかたまっちゃう。

セックスのときに本当の自分を見せたら嫌わるんじゃないかと思っている人もいて、それは感情よりも思考が強い状態です。でも本来セックスや恋愛は、思考で左右されないものです。「なんでこんな人を好きなんだろう?」ってこと、ありますよね。思考優先で条件で選ぶのなら、みんながみんな同じ人を選ぶでしょう。自分だけの正解を信じられれば、思考を飛び越えていけます。「この人に嫌われたらどうしよう」じゃなく、「この人が好きなの!」という気持ちで突っ走る。

イク、イカないは些細なこと

三浦:ブロックは、どうやったら外せますか?

森林:、僕はセックスをシンプルに”遊び”として考えるのが大事だと思っています。子どものときに覚えた遊びです。どろんこ遊びとか、かくれんぼとか、いないいないばあとか。意味も価値もないんです。ただただ楽しい。

遊びには社会性がないし、思考を働かせるものではない。でも、ルールはあります。かくれんぼなら、見つけられたら次はその人がオニになるんだよ、とか。それがセックスでは、「コンドームはつけます」「相手を傷つけません」「イヤなことはイヤといっていい」みたいな、基本的な約束事になります。ルールを守れば、あとは遊びに夢中になるだけ。そうすると、自然と社会性がなくなっていき、思考も落ちていく。行為に没頭し、時間を忘れます。

三浦:それだけ夢中で遊べると、イク、イカないは些細なことのように思えてきますね。

森林:それは”おまけ”なんです。結果としておまけがあるとうれしいけど、おまけを手に入れようとしてセックスすると、ぜんぜん楽しくない。

三浦:タブーを破るなかにもルールがある、というお話でしたが、森林さんが思われる大事なルールを教えてください。

森林:それは「性的同意を取る」ことです。自分がキスやセックスをしたいことを相手に伝え、相手が「いい」と同意したら、それはしていい。同意が取れなかったらしない。

「性的同意」の上手な取り方

森林:日常生活においても、同意を取らない人は人間関係がうまくいかない。たとえば学校で消しゴムを忘れたとします。たかだか100円ぐらいなんだからと、隣の席の子のものを勝手に使っちゃう。で、戻す。これ、どうですか?

三浦:別に貸さないわけじゃないのに、勝手に手を伸ばされるのはイヤです。

森林:ですよね。いってくれたら、こっちも断れます。ケチだと思われるかもしれませんが、もしかしたら大事な思い出の消しゴムかもしれない。それがその人にとってどんな価値があるものなのかは、その人だけが決められるんですよ。

同じように自分の体をどうするかは自分で決めていい。それをほかの人が、立場や関係性を利用したり、ましてや暴力的な圧力を使って、好きにしてはいけないです。重要なのは、相手が断りやすいように同意を取ることだし、いわれたほうは、どんな状況であれ、自分がイヤだったら同意しなくていいんです。

三浦:同意を取る側も、断られたらどうしようと考えると緊張しそうですよね。コツはありますか?

森林:”Iメッセージ”という考え方があって、主語をI(私)にして伝えるんです。具体的には、まず「私は、あなたとしたい」と伝え、「あなたはどうですか」と確認する。僕の知り合いの女性はカナダ人男性と交際中ですが、それをとてもスマートにいってくれるそうです。「僕は君のことが好きなんだよ、だから今夜、僕は君としたいんだ」……私の意思を尊重してくれてるんだ、私という人間を大切に思ってくれてるんだということが伝わりますよね。

三浦:性的同意ってロマンチックじゃないといわれがちですが、十分すぎるほどロマンチックで素敵ですよね。

森林原人の「セクシャルウェルネス」

三浦:今回遊びとしてのセックスについてお話をうかがいましたが、セックスの中心に”遊び心”を置いておくと、一生楽しめそうですね。

森林:そこには勝ち負けもないし、マルバツもないですよね。「ああ、楽しかった」と思うだけ。いろんな方法があると思うので、ふたりで見つけていけばいいと思います。

三浦:最後に、森林さんにとってのセクシャルウェルネスとは?

森林:安心、安全に快を楽しむことができる状態ですね。そのために必要なのが、正しい知識や健康な体、あとは社会のブロック、フィルターからの解放。そして何より、いちばん大切な自分とつながることですね。

三浦:ありがとうございました。

〜編集後記〜

性的同意が話題にあがるたびに必ずといっていいほど、「わざわざ口に出すのは野暮だ」「許可をとるなんてロマンチックじゃない」という人が出てきます。そういう人ほど、ロマンチックというものをナメているなと思います。

ティーンズラブといわれるコミックのジャンルでは、男性が強引に(ときに犯罪的にも見えるほど)迫り、それによって女性が性的に開放される……というのが定番です。これをロマンチックだと感じる人もいるのかもしれませんが、果たしてそうでしょうか。女性は自分から性を求めるものではない、「強引に求められて仕方なく」というエクスキューズが必要だという、森林さんがおっしゃるところの「ブロック」の裏返しだと見ることができます。

同意とは主体的なものです。ブロックが強いほど主体性を発揮できなくなります。まして女性から男性に性的同意を求め、セックスをするということはむずかしいでしょう。自分で自分の身体をどうするかを決めることができ、最中でもイヤなことはイヤだと伝えながら、相手との共同作業で快感を獲得する……そのほうがよほどロマンチックだと思いませんか。
(三浦ゆえ)

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